ゲームと共に歩む人生

『ファミ通ゲーム白書2018』によれば、ゲーム市場は国内だけでも1兆5,686億円もの規模に達しました。市場の成長速度は比較的緩やかになってきているそうですが、それでもこの巨大産業が社会に与えるインパクトは決して小さくないでしょう。市場成長を牽引したのは言うまでもなく、スマートフォン向けのアプリゲームです。そして、アプリゲーム分野の急激な拡大とともに、様々なゲーム系Webメディアが新設されました。猫も杓子もと言いますが、大手出版社からスタートアップ企業まで次々とメディアを立ち上げた結果、今やゲームに関する情報はかつて無いほどに氾濫しています。

ところが、気付いてみれば出来上がったサイトはどれも似たり寄ったりだったりします。大きなイベントが開催されればレポート記事一色になり、話題の期待作がリリースされるとなれば、どのサイトにも同じようなゲームの紹介文と開発者のコメントが並びます。これは、ゲーム系メディアが速報性(どれだけ早くニュースを届けられるか)と網羅性(どれだけ幅広いニュースをキャッチできるか)偏重の運営を行っていることに起因します。

確かに、各社からプレスリリースが毎日のように発表され、動きの激しいゲーム市場はネタに事欠きません。最新情報を伝えるのもメディアの重要な役割のひとつでしょう。しかし、だからといって、ゲームファンひいてはゲーム業界で働く人々が求める情報が、最新のニュースや有名人のコメントだけとは限らない。ゲームのエンディングでほんの数秒画面に表示されるだけの“その他大勢”の人々と、“名も無き”ゲームファンたちにとって、ゲームと共に歩む人生とはいかなるものなのか。それらは極めて個人的で、時にあやふやなストーリーです。

それでもなお、彼ら一人一人のストーリーを私たちは知りたいし、多くの人々に知ってもらいたい。なぜなら、ゲームと共に生きるという個々の経験が生じたその背景にこそ、豊かなゲーム文化と産業構造の問題があるように思えてならないからです。市場の大きな動きは大手メディアがこぞってニュースにしてくれるでしょう。それなら、うねりの影にある小さな語りを書き留めようとする記者が一人くらいいてもいいじゃないですか。
 

ゲームファンとクリエイターのために

PickUPs!はインタビュー記事をメインに取材・執筆しています。インタビュイー(インタビューの相手)は経営者やフリーランサーの方もいますが、多くの場合はゲーム関係の企業で働いている方々です。ディレクターやデザイナーといったゲーム開発に直接関わる仕事をしている人もいれば、マーケターや人事部、総務部に所属している人もいます。大きくまとめてしまえば、勤務先がゲーム会社というだけの普通の“サラリーマン”と言えるかもしれません。

一般人がインタビューで自分の身の上を話すなんて滅多にありません。ですから、私たちにとっては取材の一環に過ぎなくとも、インタビュイーにとっては一生に一度の出来事かもしれないのです。だからこそ、お話しをお伺いさせていただく身としては、一件の取材が、インタビューにご協力いただいた方々の将来に繋がるような、あるいはすっかり忘れていた何かを思い出すきっかけになるような、そういう実りある出会いになるようにしたいと考えています。

「そんな地味な企画じゃバズらないよ」。そういうご意見もあるでしょう。

では、バズはどうして起こるのでしょうか。SNSを眺めているとわかるとおり、時にニュースは真偽や影響力よりも、個人の好き嫌いで選ばれてしまうことがあります。この時の選択はニュースの内容も発信者の意図もそっちのけで、ただタイムラインを自分の好みに適した情報で埋め尽くすためだけに半ば衝動的に行われます。同時に、オンライン上のつながりには、フォロワー(購読者)が多いほどフォロー(や閲覧、シェア)してもらいやすくなり、逆にフォロワー(購読者)が少なければ良質な記事であってもほとんど読んでもらえない、というような性質(優先的選択といいます)があります。このような性質のために話題が一極集中した結果がバズというわけです。

バズが生じると、タイムラインはその話題で一杯になります。それは一見楽しげなようですが、自分の好きなことだけにタイムラインを塗りつぶしていく / 塗り潰されていく様子でもあります。ただし、バズはずっと続くわけではありません。数日で落ち着いてしまう場合がほとんどです。

しかし、WebメディアもTVも、紙媒体の出版物に至るまで、あらゆるメディアがバズを起こそうと躍起になっています。どこかでバズが起こって、それが終わる頃にはまた別のメディアでバズが起きる。――そうやって話題がどんどん単色に塗り潰されていき、いつの間にかゲームメディアからも多様性と寛容が失われていってしまうのではないか。時折そんな不安に駆られることがあるのです。

この不安がいつか的中してしまわないように、と私たちは願っています。だからこそ、バズを追いかけ回すのではなく、むしろバズのメカニズムを解体し転覆させ、ゲームファンとゲームビジネスをもう一度違う形でつなぎ替えたい。その企ての拠点としてPickUPs!という会社を設立し、同名のニュースサイトを立ち上げました。PickUPs!の全ての記事とサービスは、新しいゲームメディアのミッションを推進させることを目標としています。

PickUPs!
代表 原孝則
ライター 神谷美恵